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アメリカにおける
日本語継承語教育の現状と
​AP Japanese試験の意義について

大学に論文を提出するために日本語継承語教育について調べました。

​同じ2007年から始まったAP Japanese試験AP Chinese試験の受験者数やクラス数の違いに驚愕し、

日本政府に日本語継承語教育を任せられない!

私達民間の日本語教師が日本をルーツに持つ子供達を育てていかなくてはならないと感じました。

​以下の文章は論文を必要な部分を抜粋し、書き直したものです。

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​日本政府にとっての継承語教育
ないがしろにされ​ている海外在住のJHL学習者

2019年6月「日本語教育の推進に関する法律」が施行された。この法律の対象者は主に日本国内に居住する外国人のための日本語教育である。だが、海外にも日本語教育を必要としている学習者が多くいる。それは、外国語として日本語を学ぶ学習者の他に海外に居住する日本にルーツを持った子供達や日本国籍を持った子供達である。このような子供達に日本語教育の機会を与える事はとても重要であるが「日本語教育の推進に関する法律」には、その存在がほとんど語られていない。日本政府はもっとこのような子供達にも目を向けるべきではないだろうか。

Japanese as a Heritage Language(以下JHL)と言う言葉がある。日本語では「継承語としての日本語教育」と訳され、主に海外に居住する日系人家庭で行われる日本語教育である。現在、アメリカでは「グローバル社会に貢献できる継承語話者を育てる、より効果的な継承日本語教育が以前にもまして求められている」(ダグラス/知念・2014)そうだ。だが、JHL教育には課題が多く、教育を受けたくても受けられない子供達が多く存在する。多くのJHL学習者が適切な日本語教育環境を受けられるようにするにはどうすれば良いか考察した。その結果、高校生が受験するAP Japanese Language and Culture Exam(以下AP Japanese試験)が、JHL学習に有効的ではないかと仮定した。

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​AP Japanese試験結果
JHL学習者が有利だと言う証明

本当にAP Japanese試験はJHL学習者にとって有利なのか。College Boardに実証するデータがある。

 

まず、各外国語AP試験の結果にはStandard Group とTotal Groupの 二種類の結果データがある。Standard Groupは、第二外国語としてその言語を学んだ学習者である。つまり、Total GroupからStandard Groupの人数を引くとJHL教育を受けた学習者数がわかる。

表1はAP Japanese試験受験者の結果である。この結果から、最高スコアのスコア5を獲得した学習者の79%がJHL学習者であり、

スコア4を入れると85%以上の受験者がJHL学習者となる。

この結果から、JHL学習者にとってAP Japanese試験は高スコアが獲得しやすいと言う事が証明でる。

​AP JapaneseとAP Chineseを比較

​AP Chineseの急激な増加

以上のようにJHL学習者に大きなメリットがあるにもかかわらず、AP Japanese試験の受験者は毎年2,500人程度である。受験者が少ない原因や継承語としての日本語教育の問題点について他言語のAP試験と比較しながら考察する。

外国語のAP試験は全部で7か国語8種類ある。日本語の他に中国語、フランス語、ラテン語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語(2種類)である。

右の表はCollege board による2019年と2020年の受験者数を外国語別に比較したものである。

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AP JapaneseとAP Chinese試験は共に2007年に開始された。なのにAP Chinese試験受験者が特に桁違いにAP Japanese試験受験者より多いのは、ただ単に中国語話者人口が多いと言うだけの理由なのだろうか。

次にAP 試験College Boardのデータを基に2007年から2020年まで13年間の全米におけるCollege Boardが認可したAP クラスを持つ学校数と試験受験者数を表にしてみた。その数の推移を図1で表した。その結果、他言語よりも学校数や受験者が多いのは、ただ単に中国語話者人口が多いと言うだけの理由ではない事が分かった。

2007年次のAP Japanese(青線)とAP Chinese(黄線)の認可されたAP クラス数は26校しか違わない。

だが、13年後の2020年になるとAP ChineseクラスがAP Japaneseクラスより620校も多い結果になった。

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同じくAP試験の受験者数にも同じような結果が見られた。

折れ線グラフにするとAP Japanese受験者数(青線)は横ばいなのにもかかわらず、AP Chinese受験者数(黄線)だけ急激な増加が顕著である事が分かる。

​なぜAP Chinese試験受験者が多いのか
大きな政府のサポート​の違い

この急激なAP Chineseクラスと受験者の増加には、中国の経済的急成長と中国政府の経済的支援が大きく関与している。孔子学院という教育機関がある。中国語教師の派遣、教材の提供、中国留学奨学金支給などの支援を行い、海外在住の中国語学習者が学びやすい環境を作った。更に中国の経済的急成長により、アメリカ在住の高校生が将来の就職に役立つとして外国語学習に中国語を選択したのも大きな要因である。これらの支援を受けた学習者は主に外国語とし中国語を学ぶ学習者が多いが、中国政府は中国語継承学習者(以下CHL)も忘れていなかった。朱氏によると1990年代半ばには、82,675名の生徒が中国語の継承語学校で学でいるとある。そして、AP Chinese試験受験者の80%以上が最も高いスコア5を獲得し、「受験者の殆どが中国語の母語話者或いは中国系の人々である」と、いかにCHL教育が充実しているかが分かる。

右の図はAP Chinese試験受験実施校の分布図(上図)だが、1州に20校以上ある州(赤)が全米に多くあるのに対し、AP Japanese試験実施校(下図)では、20校以上ある州はカリフォルニア州のみであり、1校もない州(黒)や4校以下(グレー)の州が多くあるのが分かる。

15年余りの間にこれだけの差が出来たのは政府のサポートの有無が大きいと考えられる。

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​継承語としての日本語教育の現状
大きな地域差​と教育環境の不足

College BoardのデータによるAP Japaneseクラスの学校数をアメリカの白地図を用いて州ごとに20校以上ある州は赤、15-19校はオレンジ、10-14校はピンク、5-9校は水色、1-4校は灰色で色分けして、地域格差があるのかを調査した(上図)。黒は全くクラスのない州であある。色分けされたアメリカ地図を見ると、日系人の移民に歴史がある西海岸と教育水準が高く面積も広いテキサス州にAP Japaneseクラスが集中し、ほとんどの州でAP Japaneseクラスが提供されていないか、ほんの数校しか存在しない事が分かった。

更にホームページ「usajpn.comアメリカ生活 教育情報」で2020年に集計された日本語学校と補習校の所在地も同じように色分けをした(下図)。すると両方の分布図が同じような色分け状態となった。この結果から、JHL教育を受ける環境は限られた州にしかなく、地域格差がかなりある事が分かった。

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JHL教育の問題点
日本政府の支援・高校の対応・日本語教師不足

AP Japanese試験受験者がAP Chinese試験受験者のように増えなかった主な理由を3点あげる。

第一に日本政府からの経済的支援の有無

外国語教育はその国の経済状況に大きく影響される。かつて日本はバブル経済と言う好景気を迎えた時期があったが、それに伴いバブル経済が崩壊する1991年まで、企業派遣の日本人家庭の数が増加し、補習校の数も増加を続けた。だが、バブル経済が崩壊するとともにアメリカに居住する義務教育年齢の日本人子弟は減少し、補習校も減少した。

第二に受験会場である高校の対応の悪さである。複数言語環境で育つ子供達の研究をしている団体であるバイリンガル・マルチリンガル子供ネットに相談したところ、次のような回答を得た。「AP Japaneseクラスの設置がない学校で、試験の実施を断られるケースはアメリカのどの州でもよくあるようです。受験者が1人であっても、試験監督の先生を手配する必要があるため、その手間を取るかどうかが、各校の判断に委ねられているようです。実施を引き受けるかについて、全米の州に一律に適応されるルールはなく、各高校の先生次第なのは致し方ないようです」

しかしながら、日本人や日本語を理解できる人員がいなくても容易に受験対応可能である。AP Japaneseクラスある高校では、他校の生徒も受け入れる場合があるが、AP Japaneseクラスが1校もない州では、受験が難しい。更に受験者を少なくしている原因に、このAP Japanese試験の存在がJHL学習者に認知されていない事である。現地校にAP Japaneseクラスがあれば、おのずと試験を受けるように教師に勧められたりするが、多くの高校生はAPクラスを履修していなければAP 試験を受験できないと誤解していることが多く、AP Japanese試験の存在を知っていたも受験できないと諦めてしまうようだ。AP試験はAPクラスを履修しなくても受験可能である

 

第三にJHL教育に携わる日本語教師の不足である。アメリカで正規の日本語教師、つまり高校や大学などで教鞭をとるには、教員免許や修士号以上の学歴が必要である。だが、AP Japaneseクラスを持つ高校など正規の日本語教師になれる教育機関が少ない。私設のJHL教育学校やコミュニティーでの日本語教師は「留学生、父母兄妹、コミュニティーの年長者、一時滞在の母語話者など」であり「社会的に認識度も低く、報酬も少ないため長続きしないし、職業意識も芽生えない」(中島・2003)と言う理由から、的確なJHL教育を指導する日本語教師が不足している現実がある。

継承語としての日本語教育を受けさせるには
オンラインTutor

JHL教育の難しさは日本語教育の中でも未発達の領域であり、「実際にカリキュラムなし、教科書なし、教材なし、教師研修なしという状況にあり、教授法にまで議論が及ばない」(中島・2003)ことである。だが、これをJHL教育と言った広範囲ではなくAP Japanese試験の指導と的を絞れば、どのような指導をすれば高スコアが獲得できるのかマニュアルを作成することが可能である。だが、例えマニュアルを作ってもこれを一度に複数の生徒に指導するのはかなりの技量が必要である。なぜなら「継承日本語話者である児童は、家庭での日本語環境の違いから、基礎文法及び音で聞くと意味が分かる語彙の量にかなりのばらつきがある」(ダグラス・2014)ので、ただ年齢や学年でのクラス分けで複数のJHL学習者を一クラスで教えるのは困難である。また、AP Japanese試験のライティングとスピーキングの試験内容は、フリーレスポンスであるため解答は一律ではなく、それぞれの学習者に個別の指導や添削をしなくてはならず、日本語教師の負担は大きくなる。

そこで、AP Japanese試験対策用の日本語教師がオンラインでレッスンをすれば、JHL学習者はAP Japaneseクラスや補習校のない地域でもJHL教育を受ける事ができる。

「親が日本語を勉強しなさいと言うから…」と言う消極的な動機ではなく、大学進学や学費に大きなメリットがあると受験者自信が自覚をし、AP Japanese試験での高スコア獲得を目標にすれば、日ごろの日本語学習のモチベーションも上がると期待する。

「社会のお荷物」だったJHL学習者がJHL教育をする事で、海外にいながらでも日本に愛国心を持ち日本人としてのアイデンティティーを育む事ができるだろう。そのようなJHL学習者がアメリカで活躍することにより、日本にも恩恵をもたらすに違いない。

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